「本朝食鑑」というものの本には「江戸の士民、好事家、遊び好きの者等は、扁船に竿をさし、簑笠をつけ、名酒をのせ、竿を横たえ、糸を垂れ、競って相釣っている。これは江上の閑涼、亡世の楽しみである」と書き、ハゼの釣り人を「志和、亀家の徒輩とでもいおうか」と評しています。志和、亀家はいずれも中国の仙人で、俗世間をのがれ、もっぱら船上の釣りを楽しんで一生を終わったというから、ハゼ釣りは仙境にたっした太公望のたちの無上の遊びといわれていたようです。



ハゼが東京湾の海底でどんなマイホームをつくっているかは謎とされていました。ところが1983年3月、東京都水産試験場がその標本採取に成功したのです。巣はパイプ状になっていて総延長が2m以上もあり、直径3〜4cm。出入り口が2カ所のU字型で、中央にややふくらんだ「産卵室」が作られていたとのこと。海底にこんな立派なマイホームがあったとは驚きです。



ハゼは種類が多いので有名。世界中に千種にものぼり、いまでも新種が発見が続いています。北は北海道から南は九州まで、日本全国の河口域で生活していますが、ヨシノボリという種類は、なんと標高数百mの谷川に棲んでいるといいいます。ちなみに九州地方で「おどり食い」で食べるシロウオや九州有明海の名物ムツゴロウも立派なハゼ一族です。