パリの町ではカキの季節になると、通りのそこここに、屋台が車を並べ、カキを立ち喰いでたべさせてくれる。パリっ子はワイン片手に殻つきカキをレモンに添えてすすり食べる。“海の産んだ美味の結晶”カキは磯の香りとほのかな甘みで海の便りを確かに伝えてくれています。
中国ではその昔「太真乳(太真とは楊貴妃のことで楊貴妃の乳の意味)」といって珍重し、ヨーロッパでは「海のミルク」といってその栄養価とおいしさを称えています。
ジュリアスシーザーが兵士の士気を奮わせるためにカキを食べさせた、とかドイツ宰相ビスマルクが一度に175個たべたのが最高だった、とか、英雄ナポレオンが大好物だったとか、無口で一度はりついた岩から一生動くことのないカキですが、世界中にエピソードが散らばっているようです。
日本にも古事記に、軽太郎女が木梨の軽太郎に贈った歌で、女性の愛情表現に、カキが重要な役目を果たしています。
夏草の 相寝の浜の 蠣貝に 足踏ますな明かして通れ
日本のカキ、中でも宮城のカキはマガキといって豊満な、ボッテリとお腹のふくれた種類で、とろりとした味わいはまさに逸品、ひと粒のかき物語に思いをはせて、思いきり賞味しましょう。



カキは料理直前に洗いましょう。カキの浸っているドロッとした液は鮮度を保つために必要なものなのです。
鍋物には大粒、ごはん物には小粒なものが向いています。生食のときは「生食用」の表示のあるものを用いましょう。



カキの見分け方は、粒が揃っていること、柱は透明感があり身から離れていないもの、身がふっくらとして光沢のあるもの、カキ特有の香りの高いもの、粒のわりに柱が大きいもの…などがおいしいカキの条件です。これらに注目して選びましょう。



殻付カキを開けるのには、まず貝柱の位置を知る必要があります。貝柱は、殻の深い方を下にして、幅の広い方を手前に置くと、殻の半分よりやや手前で左側にあります。
要は、この貝柱を切り離し、こじ開ければよいのですが、なかなかナイフを入れる隙間が見当たりません。
よく見ればどこかに隙間は必ずあるのですが、分からない場合は、先の方を少し欠けば隙間ができます。
ナイフは専用ナイフが望ましいのですが、ない場合は、ステーキ用ナイフ、先のとがった洋バサミなどで間に合います。先が鋭く、硬い刃物ならよいのです。
貝柱を切り、上ブタをこじ開けた後は、下の貝柱を付けたまま、流水でさっと汚れを流し落とします。
後は、下の貝柱をはずしカクテルソースなどで生で食べてください。焼いて食べる場合でも上ブタをはずしてから、焼いた方がよいでしょう。



カキは「海のミルク」と言われるほど栄養価が高い強壮食品です。カキには肝臓の働きを活発にするグリコーゲンが多く含まれており、このグリコーゲンは10月以降冬から春にかけて含有量が増えてきます。
カキの蛋白質に含まれるグルタミン酸、システィン、タウリンなどのアミノ酸は、体内の毒素を分解し、放出させる働きがあり、カキの粘液にあるタウリンはコレステロールを低下させる役目があります。
また、EPA(エイコサペンタエン酸)、DHA(ドコサヘキサエン酸)という高度不飽和脂肪酸の含有率も高く、特に陸上の動植物にはほとんど含まれないEPAは、心筋梗塞や脳血栓などの血栓性疾患を予防します。
一般に貝類にはビタミンB群が多く含まれ、これらは肝臓に多く、丸ごと食べる貝類は最適なビタミン補給源です。かきにはとくにビタミンB2、B12が豊富で、肝臓障害に良く、造血作用もあるといわれ、レバーと同程度の含有量があります。また、ビタミンB12のなかにはコバルトというミネラルが含まれ、鉄分とともに貧血予防の効力を持っています。
また、カキに豊富に含まれる亜鉛は、子どもの成長に欠かせないといわれています。
このように、カキはビタミンA、B、C、カルシウム、鉄などを多く含んだ、動物性食品には珍しいアルカリ性食品なのです。

■栄養成分比較表

食品名 エネルギー
(Kcal)

水分
(g)

たんぱく質
(g)
炭水化物 灰分
(g)
無機質
糖質
(g)
繊維
(g)
Ca
(mg)

リン
(mg)


(mg)
Na
(mg)
K
(mg)
カキ(生) 78 81.9 9.7 5.0 0 1.6 55 130 3.6 280 230
牛乳(生) 60 88.6 2.9 4.5 0 0.7 100 90 0.1 50 150
鶏卵(全卵生) 162 74.7 12.3 0.9 0 0.9 55 200 1.8 130 120
まいわし(生) 213 64.6 19.2 0.5 0 1.9 70 200 1.7 360 340
豚肉(バラ) 433 46.1 12.8 0.2 0 0.7 5 80 0.8 50 210