●養殖の変遷   現在行われている養殖方法は、旧満州国の関東州水産試験場に勤めていた大槻四郎氏が昭和28年4月に帰国後、女川町小乗浜において採苗試験を経て養殖に成功したのが始まりです。その後、昭和30年代前半に大槻氏が種苗の生産販売を始めた事や昭和32年には石巻市萩浜の辻隆三氏による種苗の陸上水道培養と種苗販売を始めた事もあり、昭和33〜35年には女川町内にみならず雄勝湾、志津川湾へ普及していきました。
養殖ワカメは、天然ワカメ生産が環境に左右され変動が大きいのに比べ、生産が安定し生長も良く、天然に比べ2〜4カ月早い12月から出荷される利点を持ち、耐波性も高いため、ノリ・カキ養殖漁場の外海部などの未利用漁場が開発されていきました。
昭和36〜40年には気仙沼、鮫浦、本吉の各湾に広まり、昭和40年には従来養殖のまったく行われていなかった江ノ島、網地島など離島を含む外海地区にも普及して、本格的な生産体制が確立されました。
急速に発展をとげたワカメ養殖ではありましたが、その基礎的な部分が十分解明されず、採苗、種苗培養、芽落ち対策を主とする養殖管理、さらに寄生食害対策など多岐にわたる試験研究の必要性が求められたことから、宮城県として昭和40年に沿岸漁業改良普及シリーズ「わかめの養殖」を発行するなど、水産業改良普及員が講習会等を積極的に行ってワカメの人工採苗方法等養殖に関連する技術を普及し、県内の各浜に定着することとなりました。

●養殖施設の変遷   ワカメの養殖方式は、女川町小乗浜で開発された孟宗竹を浮子とした水平筏式養殖法が各地区に普及し、昭和40年頃までは各地とも主にこの方式が採用されていましたが、その後、外洋部の漁場開発が進むにつれて耐波性の強い垂下式養殖法が岩手県から導入され、昭和45年頃には水平筏式とほぼ同数に達しました。しかし、昭和48年頃から品質向上と荒天候のカラミ防止のため垂下式養殖はすたれ、現在では水平筏式、延縄式養殖法が主流となっています。

●宮城県の
 全国に占める位置
  現在では、日本各地でワカメ養殖が行われるようになりましたが、宮城県の生産量は概ね20,000〜40,000トンの範囲を推移しており、岩手県に次いで全国第2位を占める主要な生産県となっています。さらに、宮城県の生産量の7割以上を志津川町以北の県北部地区で生産されていることから、ワカメは三陸沿岸に適した養殖作物として重要な漁業収入源となっています。

●本養殖の方法   本養殖の方法には、巻き込み法と挟み込み法があります。

(1)巻き込み法
親縄に種苗糸を巻き付け、所々細糸で縛るだけなので巻き付け作業は楽ですが、本養殖密度の調整が難しいという欠点があります。巻き込み法では、種苗糸の芽付き具合によって巻き付けピッチを調節することになり、芽付けが厚芽の場合は緩めに種苗糸を巻き付け、薄芽の場合は狭めに巻き付けるか、さらにもう1本種苗糸を付け足す等して本養殖の密度調整を行うことになります。

(2)挟み込み法
2〜5cmの長さに切った種苗糸を一定間隔で親縄に挟み込む方法で、多少手間が掛かりますが、種苗糸を無駄なく使え、しかも本養殖密度の調節ができるという利点があります。ワカメの生長や色調が、挟み込み法の方が巻き込み法よりも良好で収穫量も多いことから、気仙沼沿岸を中心に挟み込み法による本養殖が盛んで、挟み込む幼芽数は内湾漁場で12〜16本、外洋漁場では15〜20本位を目安としています。挟み込む間隔が狭いと生長が悪く、広いと親縄が有効に使えませんが、実際には30cm間隔位に挟み込んで行われています。

ワカメの幼芽は乾燥に極めて弱いので、これらの作業はなるべく直射日光や風を避けるため日陰で手早く行う必要があります。従って、親縄は予め海水に浸しておき、種苗糸は桶かバケツに使う分だけ用意し、作業を終えた親縄は、順次適当に丸めて海中に垂下しておくなどの方法が行われます。
種苗の巻き込み、挟み込み作業が完了したならば、その日のうちにこれらの親縄を本養殖施設に張り込みます。この際の水深は一般に0.5m前後です。
養殖水深が深すぎると生長が遅れますが、逆に水深が浅すぎると光線障害等を受け、ひどくなると芽落ちとなります。
本養殖後に幼芽の脱落があれば、芽落ちした箇所に補殖する必要があります。大きさが30〜40cmに達する頃には間引き管理を行うのが良く、一般的に12月下旬頃から1月上旬頃にかけて行いますが、種苗の生育が順調であれば、11月中旬頃から行うこともあります。

●本養殖の施設   [ワカメ養殖施設図及び種糸取付け方法]
本養殖場の漁場環境、主として波浪環境によって本養殖施設の様式は異なり、波浪が荒い外洋漁場の養殖施設は水平延縄方式ですが、一方波浪が静穏な内湾漁場では水平筏方式が主流で、延縄方式もみられます。

(1)水平延縄式施設
種苗糸を挟み込む親縄あるいは幹縄が1本の1条式(シングル)と2本の2条式(ダブル)があり、その長さは1条式では200m、2条式では100m位が標準です。施設の様式が同一でも、親縄や浮き玉等の資材は漁場によって異なります。例えば2条式が主である気仙沼湾外洋漁場の場合、32mmの化繊ロープや古網を撚ったもの等が親縄として用いられています。親縄の間隔は、直径6cm位の竹や木の棒(浮子を兼ねる)を10〜20m間隔で横張りし、2m程度に調節します。

(2)水平筏式施設
本施設は5m(16尺)×45m(25間)が標準的な大きさで、親縄には延縄式よりも細い16〜20mmの化繊ロープを用い、これを1筏当たり4本あるいは6本取り付けます。

この他に、“水平筏式”における浮き竹の代わりに浮き玉を用いることで、耐波性を高めると同時に施設の手入れ作業を省いた“セット方式”と呼ばれる施設も利用されています。