二枚の大きな殻に包まれたホタテガイ、左殻は紫褐色でほぼ平たく、右殻は黄白色で少し深いのが特徴。右殻を船に、左殻を帆に見立てて海上を走るものと考えて、帆立て貝の名前が付けられたようです。40センチくらいまでの深さの砂、または小石の海底に棲み、3月〜7月、水温が8〜9度になると卵を産みます。殻の成長は1年で2〜6センチ、2年で5〜11センチにもなり、身が充実して食べ頃になります。また、貝の中には、身を食用にするだけでなく、貝殻も昔からいろいろなものに利用されました。たとえば、はまぐりの、同じ貝以外では絶対に合わない殻の特徴を生かして用いられた「貝覆い」は、貴族の女子の遊びとして『古今著聞集』にみられます。他には、ばい貝を使った「べいごま」、きさご貝で作った「おはじき」、あわびやさざえの殻は酒杯として用いられました。明治時代の記録によると、東京市民はホタテガイの殻をなべとして用いたことがあったようです。秋田名物の「しょっつる貝焼き」には今も貝なべが使われています。



最近話題のEPA(エイコサペンタエン酸)は、特にイワシに多く含まれているといわれますが、調理しにくいの難。血圧を正常に保ち、コレステロールの低下にも役立つタウリン、アミノ酸とともに、ホタテガイにも多く含まれています。また、ホタテガイは、いわゆる若返り食品「核酸食」としても注目の素材。なぜ、核酸を豊富に含んだ食品をとれば老化を防ぐのか。つまり、生物の細胞の核の中にある遺伝子の実体はDNA(デオキシリポ核酸)であり、生物の体は、細胞分裂によって成長したり新陳代謝が行われたりします。ゆえに、この核酸が変質するとさまざまな老化現象が現れてくるといわれているのです。ともあれ、現在日本全体に約2000近い貝塚が発見されていることからもわかるように、縄文・弥生の時代から、日本人が貝類を食べる機会はたいへん多かったと思われます。魚か獣、鳥にかわるタンパク源として、重要な栄養だったのでしょう。



淡泊な味のものは、こってりとしたものより栄養的に劣っているのではないと思われがちですが、実は全く関係ありません。要は素材の選び方が問題。味は淡泊でも、タンパク質の豊富な食品ならけっして栄養が不足するということはありません。その点、ほたて貝は、こってりした料理が苦手なお年寄りにもぴったり。さっぱりと上品な味のわりに。びっくりするほどたくさんのタンパク質を含んでいるからです。タンパク質のとり方が少なくなると、貧血気味となり、脳への酸素の供給を減らしてボケの原因となることもあります。そういう意味では、お年寄りほど、タンパク質が重要といえるでしょう。

  ホタテガイの貝柱の成分(100g中)
  干物 水煮缶詰
カロリー(kca) 106 353 113
水分(g) 74.2 14.1 71.8
タンパク質(g) 20.8 77.6 22.6
脂質(g) 0.8 0.4 0.3
糖質(g) 2.4 4.4 3.4
繊維(g) 0 0 0
灰分(g) 1.8 3.5 1.9
カルシウム(mg) 11 6 50
ナトリウム(mg) - - 500
リン(mg) 76 130 170
鉄(mg) 0.4 1.5 0.7
ビタミンA(IU) 8 0 0
ビタミンB1(mg) 0.04 - 0.02
ビタミンB2(mg) 0.10 - 0.15
ニコチン酸(mg) 1.4 - -
ビタミンC(mg) 3 - -


ホタテガイの種を播く、という意味では養殖ともいえそうですが、あとは、自然の海が育ててくれるのを待って出荷するホタテガイ。3〜4年すると食べ頃になりますが、土地ではこれを“地播きもの”と呼びます。身はむっちりとして弾力があり、とろけるような独特の甘みが、水温の低い三陸育ちの特徴。貝柱の主成分がタンパク質であることは上で述べた通りですが、その特有のうまみはコハク酸、ベタイン、グリコーゲンなどのエキス分が多いため。貝類のうまみの主体であるコハク酸が、ホタテガイ中に非常に多く含有されているのは表の通り。また、貝柱は加工により、タンパク質が呈味アミノ酸となって美味。貝柱をその容量の8%の食塩で塩づけし、一昼夜の後淡水で洗い、食塩水中で、沸騰させずに3、40分煮た後日干しし、半かわきになったら膜をはぎ取ってさらに日干し。戻して使っても重宝する貴重品。

  貝類のコハク酸含有量(100g当り)
ホタテガイ 0.37g
シジミ 0.41g
アサリ 0.33g
ハマグリ 0.14g
アカガイ 0.10g
サザエ 0.07g
カキ 0.05g
バカガイ 0.03g
アワビ 0.03g


貝の平らな方を下にして左てのひらにのせ、殻の間に殻むき器を差しこみます。殻むき器がなければ洋食用ナイフやバターナイフでもOK。
平らな方の殻に沿って小刻みに器具を動かします(貝柱を離す)。
貝柱と殻が離れて自然に口が開きます。
中身を取り出し、肝臓、すい臓、胃の働きをしている黒い中腸腺(ウロ)を除きます。